脳梗塞に関わる制度について

脳梗塞は40歳を超えてくると突然、誰でも発症する可能性がある病気です。
もし家計を支える一家の大黒柱が脳梗塞になってしまったら…
一命は取り留めて一安心、しかしその後の後遺症と向き合う中で、生活費はどうするのか、医療費は…そう考えるとほとんどの方は経済的な不安がよぎるはずです。
しかしながら、仕事復帰をめざしリハビリだけに集中してもらいたい、そんなご家族の想いはしっかりと公的サービスを活用することで不安を少しでも取り除いていきましょう。

1 身体障害者手帳の申請

① 申請時期

発症して6か月たったら、まずは身体障害者手帳を申請しましょう。
身体障害者手帳の申請に必要な診断書を作成することができるのは、身体障害者福祉法第15条第1項に規定する医師(※)に限られています。

(※)指定医師の条件(すべて満たすこと)

  • 開業し、または病院もしくは診療所において勤務するもの
  • 医師免許を取得した後、指定を受けようとする障がい区分についてその関連する診療科名及び専門領域において専門研究または臨床経験が5年以上のもの
  • 身体障害者の福祉に理解を有するもの

6か月後、回復期リハビリ病院でリハビリをしている場合、ちょうど退院する時期に重なる場合は、身体障害者手帳の申請書類を出してもらってから退院しましょう。すでに退院して自宅で生活している場合は、退院後の医療機関で作成する必要があります。医療機関によっては作成に予想以上に時間がかかってしまう場合がありますので、あらかじめ身体障害者手帳の診断書を記載できる専門医の受診をおすすめいたします。

② 身体障害者手帳認定の目安

身体障害者手帳の認定については、四肢がどの程度動くかが評価の目安であり、介護の必要度合いは考慮されません。

<目安>

1級(一番重い)⇒脳梗塞で片側手足が全く動かない、指先もほとんど動かない等完全麻痺の状態
2級⇒脳梗塞で片側の手足がわずかにでも動く状態

③ 重度障害医療受給者証による医療費控除

身体障害者手帳の認定後、どう維持に重度障害医療受給者証が交付されます。これは身体障害者手帳で3級以上の場合(自治体によっては4級の場合もあり)に、医療費の自己負担分を市町村が負担してくれるものです。
これにより、3割の自己負担がなくなり脳梗塞に関する病気だけではなく、眼科、皮膚科、歯科、薬代などあらゆる病気の治療について医療費が無料になります。

④ 確定申告時の障害者控除

納税者、控除対象配偶者や扶養親族に障がいがある場合、認定された傷害の等級により、以下の控除が可能です。

程度 控除 金額
1級又は2級 特別障害者控除 40万円
3級以上 障害者控除 27万円

2 障害年金の申請

① 障害年金の請求時期

障害年金とは、病気や障害のある人に国から支給される公的年金のことで、20歳から申請が可能な若い人でももらえる年金です。
もらえる金額は人によって違いますが、月の平均の支給額は77,289円(平成26年の統計)程度となっています。
障害年金は、以下の4つの条件を満たすことで受給が可能です。

条件1 国が定めた障害認定基準に該当する障害があること
条件2 その障がいになる原因となった初診の日から1年6か月経過した日、または1年6か月以内であっても病気やケガの症状が固定し、それ以上治療の効果が期待できない状態になったとき
条件3 初診日の前日の年金の納付状況に問題がないこと
条件4 20歳から64歳までであること

◎例外Ⅰ
以下のいずれかにあたる場合は、65歳以上であっても、例外的に障害年金を受給することができます。
・ケース1
初診日が65歳未満であり、初診日から1年半以内に障害認定基準に該当する障害の状態になった場合
・ケース2
初診日に厚生年金に加入していた場合
・ケース3
初診日に国民年金の任意加入者だった場合

◎例外Ⅱ
20歳未満で年金制度に未加入の場合

② 傷害年金の程度の目安

脳梗塞の後遺症は体の様々な場所に生じるため、症状がでている箇所ごとに認定基準が違います。
実際は診断書の内容から等級が決定されますが、症状ごとの認定基準が異なります。
なお、眼・聴力の障害に関しては認定基準が数値化されているので、主治医と相談してみてください。
以下に、麻痺や運動障害での目安を参考に示します。

程度 目安
1級 ・両腕がまったく動かない状態
・両手の全ての指が全く動かないもの、又は全ての指の機能に著しい障害がある状態
・両脚が全く動かない状態
2級 ・眼を閉じた状態で立ち上がり、自力で立った状態を保てない、または目を開けて直線を歩行中に10メートル以内で転倒、あるいは著しくよろめいて歩行を中断せざるをえない程度の状態
・両手の親指及び人差し指または中指の機能に著しい障害を有する状態
・左右どちらかの腕がほとんど動かせない状態
・左右どちらかの腕のすべての指がほとんど動かせない状態
・左右どちらかの脚がほとんど動かせない状態
3級 ・眼を閉じた状態で立ち上がり、自力で立った状態を持続させることが不安定で、目を開けて直線を歩行中に多少転倒しそうになったりよろめいたりするが、どうにか10メートル歩き通す程度の状態
・左右どちらかの腕の3大関節(肩・肘・手首)のうち、2関節以上動かす事が出来ない状態
・左右どちらかの腕の人差し指、中指、薬指、小指がほとんど動かせない状態
・左右どちらかの脚の3大関節(股・膝・足首)のうち、2関節以上動かすことができない状態

③ 障害年金の受給金額

もらえる障害年金の種類は、初診日に加入していた年金の種類によって異なり、以下の3種類があります。

■国民年金加入者 ⇒ 障害基礎年金(自営業、主婦、学生等)

程度 年額
1級 974,125円 + 子どもの加算(※1)
2級 779,300円 + 子どもの加算(※1)

■厚生年金加入者 ⇒ 障害厚生年金(一般の会社員等)

程度 年額
1級 報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加算(※2)
+障害基礎年金1級相当+子どもの加算(※1)
2級 報酬比例の年金額 + 配偶者の加算(※2)
+障害基礎年金2級相当+子どもの加算(※1)
3級 報酬比例の年金額 (※3)
障害手当金 報酬比例の年金額2年分(最低保障額 116万9000円)

■共済年金加入者 ⇒ 傷害共済年金(公務員等)

程度 年額
1級 障害厚生年金1級相当額+職域加算額)×1.25
+配偶者の加算(※2)
+障害基礎年金1級+子どもの加算(※1)
2級 障害厚生年金2級相当額+職域加算額
+配偶者の加算(※2)
+障害基礎年金2級+子どもの加算(※1)
3級 障害厚生年金3級相当額 +職域加算額
障害手当金 報酬比例の年金額+職域加算額×2年分
(最低保障額 116万9000円・一時金)

(※1)子どもの加算 第1・2子 224,300円 第3子 74,800円

(※2)配偶者の加算 224,300円

(※3)最低保障額 年間58万4500円

④ 障害年金の請求に必要な書類

障害基礎年金および障害厚生年金は日本年金機構に請求します。請求に必要な書類は以下のとおりです。

  1. 年金請求書 (年金機構のHPにあります)
  2. 受診状況等証明書(初診日の証明書類。ただし、診断書作成医療機関と初診病院が同一である場合は提出する必要がありません。)
  3. 診断書(初診日から1年6か月目以降のもの)
  4. 病歴・就労状況等申立書(請求者が自分で作成。断書では伝えきれない日常生活状況を伝えることのできる重要な書類なので、ポイントをおさえてしっかり記載することが重要です)
  5. 年金手帳
  6. 戸籍謄本
  7. 銀行口座の通帳若しくはキャッシュカードの写し
  8. 身体障害者手帳・精神保健福祉手帳・療育手帳の写し

加給対象者がいる場合は、さらに対象者の収入が確認できる書類や世帯全員の住民票が必要です。

3 会社から受けられる手当

① 傷病手当

病気や負傷のために働くことができず、賃金の支給を受けられない場合に、標準報酬日額の3分の2が支給されます。傷病手当は基本的に“就業不能“を証明されたことで受け取れます。

② 失業手当

脳梗塞をきっかけに退職となってしまった場合に受給することができる雇用保険の制度です。
雇用保険の受給期間は原則として1年間ですが、その間に病気で続けて30日以上働けないとその分だけ受給期間を延長(最長3年間)できます。
失業手当は基本的に“就業可能“を証明されたことで受け取れます。

③ 両手当の受け取りについて

最初は健康保険で傷病手当を受け取ることになります。現在の職が継続出来なかった場合はリハビリを継続しながら「失業手当」の延長措置を使って受給期間を延ばすこともできます。